大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和44年(ネ)650号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決及び熊本地方裁判所昭和四三年(手ワ)第三八号の手形判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代表者は、主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張及び証拠関係は、次に付加訂正するほか、原判決事実摘示(原判決一枚目裏四行目「被告は、」を「被告会社の無限責任社員である斉藤シズエは、」と改め、同一三行目「対する」の次に「拒絶証書不要とする」を、同二枚目裏二行目「人として」の次に「しかも東洋鉄工株式会社の代表者である山辺善衛個人に対して」をそれぞれ加える。)と同一であるから、これをここに引用する。

控訴代理人は、次のとおり述べた。

仮に本件手形が東洋鉄工株式会社宛に振出されたものだとしても、

(一)  同会社は被控訴人に本件手形を裏書したことはない。

(二)  また、同会社の代表者山辺善衛及び被控訴人はそれが斉藤シズエ個人の振出にかかるものであることを知りながら取得したものであるから、控訴人に本件手形金支払の義務はない。

被控訴代表者は、控訴人の右主張事実を争う、と述べた。

(証拠関係)(省略)

理由

当裁判所も被控訴人の本訴請求は理由があり、これを認容すべきものと判断するが、その理由は次に付加するほか原判決理由記載(ただし、原判決三枚目表一行目「代表者」を「無限責任社員」と改める。)と同一であるから、これをここに引用する。

一  控訴人は「本件手形は東洋鉄工株式会社の代表者である山辺善衛個人に対して振出したものである」と主張するけれども、本件手形である成立に争いのない甲第一号証の受取人欄の記載および原審証人斉藤常雄の証言によるとき、それは東洋鉄工株式会社宛に振出されたものと認めるを相当とし、仮に控訴人の右主張には受取人欄を空白として山辺に振出されたものであるとの主張が内含されているとしても、右各証拠によれば受取人欄は「東洋鉄工株式会社」と記載されて振出されたものであることが認められるのである(該認定に反する当審証人斉藤常雄の証言は右各証拠に対照して信用できない)。

二  次に控訴人は「東洋鉄工株式会社は被控訴人に本件手形を裏書したことはない」と主張する。しかし前顕甲第一号証によれば、東洋鉄工株式会社が被控訴人に本件手形を裏書したことが認められるばかりでなく、もともと前示認定のように被控訴人は裏書の連続ある所持人であるから、被控訴人が本件手形の所持人と推定されるのであり、その推定を覆すためには、控訴人において本件手形が有効な裏書により被控訴人の所有に帰したものではなく、しかも手形法第一六条第二項本文による手形上の権利の取得もないこと、すなわち同条項但書により手形取得者に右の点に関する悪意または重大な過失があつたことをも併せて主張立証しなければならないところ、この点に関し何等主張立証がなされないから、控訴人の右抗弁は採用できない。

三  次に控訴人は「東洋鉄工株式会社の代表者山辺善衛および被控訴人は本件手形が斉藤シズエ個人の振出に係るものであることを知りながら取得したものであるから、被控訴人に本件手形金支払の義務はない」と主張するけれども、被控訴人がかかる事情を知りながら本件手形を取得したことを肯認できる証拠は何もないから、その余の点につき判断を加えるまでもなく、控訴人の抗弁は採用できない。

四  原審における証人斉藤常雄の証言に当審における同証人の証言を合せ考えて見ても、未だ控訴人の「見せ手形」に関する抗弁事実を肯認するに足りない。

よつて原判決は相当であり本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例